2012年9月1日土曜日

言葉選びについて

かつて野球の実況を勉強していて、先輩アナウンサーの言葉選びに
「目から鱗・・・」の思いをしたことがあります。一塁ゴロを捌く選手の
実況描写で、多くのアナウンサーが「自らベースを踏んでアウト」と
表現しているところを、その先輩は「自分でベースを踏んでアウト」と
描写していました。「自ら」を「自分で」に置き換えただけのことでしたが、
初めて耳にした時、言葉選びの原点を示されたようで、感動にも似た
納得感を覚えたものです。
「自ら」と「自分」・・・どちらを選んでも大差のないことかもしれません。
しかし、「自ら」が常套句として使われている実況アナウンスにあって、
あえて「自分」というありふれた普段着の言葉を意識的に選んで使う
先輩の感性に感銘しました。日常語が新鮮に聞こえました。
ところで私たちは、使う言葉に序列をつけて日本語を操っているという
趣旨の指摘があります。文化勲章受章者で小説家の丸谷才一さんの
指摘です。和語より漢語、漢語より片仮名の西洋語が格上だという
言語風土の中で私たちは生きており、この三種類の言葉の格式を
みんなが心の底で感じながら、言葉を選び使っているというのです。
確かに、西洋語ばやりだし、漢語がずいぶん幅をきかせているように
思います。丸谷さんは、「この三種類の言葉による三段階の格式が、
現代日本語の大問題だ」と異を唱えています。
話をする際の言葉選びについては、相手がよく知らない(自分でも
意味がはっきりしない)難語や誤解の余地がある言葉は避けるべきだ
と言っています。それだけで話の質はずいぶん上がるし、相手によく
通じるようになるとも言っています。
私たちは、人前で話す時、格調高く話したいと思うあまり、時には、
これ見よがしに、片仮名の西洋語を連発したり、漢語を多用したり
しているように思います。似たような意味で、冒頭の野球実況でも、
「自ら」のほうが「自分で」より少し格上の言葉として使われていたと
言えないでもありません。それだけに、その時の先輩の言葉選びは、
私にとって極めて示唆的でした。人前で話す時、言葉選びに神経を
使う習慣を身につけたいものです。
9月の鞍田朝夫「話し方教室」は、あす2日と第4日曜日の23日です。
富山県民会館の608号室で午前10時から12時まで開講します。
テーマは、「わかりやすい表現で話す」と「正しい敬語で話す」です。
関心のある人はぜひご見学下さい。
教室の概要は、富山県民会館のホームページに添付掲載してあります。