岬の先端に立つ小さなカフェ。なじみの客の訃報に沈痛な
面持ちで椅子に腰かける傷心の女主人。店の入り口には
「きょうは、お休みにします」と、休業を知らせる手書きの
張り紙・・・
いま話題の映画「ふしぎな岬の物語」のワンシーンです。
カフェに集まる人々の日々の交流を通して描かれている
人の優しさや温かさも然ることながら、手書きの張り紙の
素直な表現に惹かれました。
「お休みにさせていただきます」、「休ませていただきます」
ではなく、「お休みにします」というところに、女主人の飾ら
ない心情が感じられて溜飲の下がる思いをしました。
昨今「させていただきます」が濫用気味です。商店街では、
「本日は休業させていただきます」、結婚式では司会者が、
「披露宴を始めさせていただきます」、テレビでは、字幕で
「〇〇の番組は、☓☓のためお休みさせていただきます」
などなど・・・
そもそも「させていただきます」は謙譲語です。本来、敬意
をもって相手に同意を求めるような時に使うのが普通です。
しかし、ただ語尾に付けるだけで丁寧になると思うからか、
同意を求めているわけでもないのに、むやみに多用されて
いるのです。
作家で日本文学者の林望さんは、著書”日本語へそまがり
講義”の中で、へりくだる必要のないところにまで、「させて
いただく」が頻出しているのは、結果的に「慇懃無礼」という
感じになり、こういうのは謙遜的傲慢だ、と弾じています。
また、敬語は使うことも大切だが、適切に「使わない」ことも
大切な「言葉の洗練」であって、少なくとも教養ある大人は、
そういう洗練された言葉遣いを目指したいものである、とも
書いています。
同感です。”過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如し"なのです。
鞍田朝夫「話し方教室」、11月は「話しかけるように話す」、
「エピソードで話す」がテーマです。2日と16日の午前10時
から富山県教育文化会館で開きます。
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お電話いただければ幸いです。