2018年2月1日木曜日

「日の名残り」を読んで

ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロさんの「日の名残り」を
読みました。全篇を通し、イギリスの名門家に永年仕えてきた執事
が旅をしながら自らの半生を回想する構成になっており、読み進む
につれ主人公の語り口や考え方に引き込まれていく不思議な魅力
を持った小説でした。
数年前にBS放送で映画の「日の名残り」は見ていました。執事と
いう仕事に生涯をかけてきた主人公が、職務に忠実なあまり断ち
切ってしまった女性との愛を確かめるべく、短い休暇を貰って車で
旅に出るのです。アンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンの二人
が演ずる執事と女中頭が醸し出す大人の雰囲気、お互いを思い
ながらすれ違うそれぞれの愛情、そして、その深まりと、結末は?
・・・何んとも深イイ映画でした。
その原作者が日本人の両親を持つ日系イギリス人だとはまったく
意識せずに見ていました。昨年秋のノーベル文学賞のニュースで、
映画の記憶と原作者とが私の中でひとつに繋がり、特別な感慨と
親近感を覚えたのを思い出します。
ところで、小説「日の名残り」は、主人公の執事が過去の出来事を
回想する際の言い回しや話の展開に学ぶべきところがとても多く、
語彙や表現法を増やすのに好適な作品ではないかと感じました。
象徴的なシーンがありました。主人公の執事が、恋愛小説を読書
中に部屋へ入ってきた女中頭に「何を読んでいるのか」としつこく
問われ、すったもんだあった末、執事としての魅力的な言語能力、
つまり、発音や爽やかな弁舌を磨くために暇を見つけては巧みに
書かれた本を手に取り読んでいる、と述懐するのです。
知識を増やし教養を豊かにする近道は読書だというのが原作者の
ポリシーなのでしょう。確かに、話が上手な人は語彙が豊富です。
「彙」は「集まり」の意です。したがって、語彙が豊富とは、辞書的な
単語はもちろん、表現の仕方や話のテーマなどの集まり、選択肢を
多く持っていることをいうのだと考えます。
話材としての語彙を増やすには読書が一番だと言われています。
映画「日の名残り」をDVDで見直しました。小説の「日の名残り」も
主人公の豊かな語彙をメモしながらもう一度読み返してみようかな、
と思ったりしています。
2月の鞍田朝夫「話し方教室」は、4日と18日の日曜日に開きます。
いずれも、午前10時から富山県民会館の608号室で開講します。
学習テーマは、4日が「話材を整理して話す」18日が「簡潔に話す」
です。教室の見学を受付けます。事前に☎076-431-3248にご連絡
いただければ幸いです。