2025年6月1日日曜日
四字熟語を使う
6月です。大相撲の大の里が横綱に昇進しました。昇進伝達式の口上でどんな四字熟語を使うのか関心の的でした。
口上は「横綱の地位を汚さぬよう稽古に精進し、”唯一無二”の横綱を目指します」というものでした。
注目の四字熟語は”唯一無二”でした。他に比べようがない孤高の横綱を目指すという強い決意と覚悟が込められた言葉だと思います。
▼この”唯一無二”という言葉は、大の里が大関昇進時にも使ったものです。
当初は違う言葉を考えていたものの”唯一無二”以上の言葉が見つからず、最終的に前日になってこの言葉を選んだと明かしています。
この”唯一無二”は父親が好きな言葉だそうですから、家族への感謝と誓いの思いも込められているのでしょう。
▼大相撲の昇進伝達式で四字熟語を使った口上が注目されるようになったのは貴乃花がきっかけだと思われます。
平成5年(1993年)初場所後に貴ノ花(のちの貴乃花)が史上最年少で大関昇進を果たした際に
「今後も”不撓不屈”の精神で相撲道に精進いたします」と口上を述べて世間の耳目を集めました。
▼それ以前にも力士によっては”一生懸命”など四字熟語的な言葉を使う例はあったようですが、
明確に「四字熟語を選んで意識的使う」という口上が定着したのは、貴乃花やその兄である若乃花が昇進伝達式で
"不惜身命””一意専心”堅忍不抜”という四字熟語を使って話題となり、次第に他の力士にも広まり一般化したと言えます。
▼ところで、スピーチにも時に四字熟語を使うと効果的です。
内容にふさわしい四字熟語を使って話すことで話の主題が明確になり、聞き手に強く印象づけることができます。
また、四字熟語をきっかけにエピソードや具体例を話すと、スピーチに深みや説得力を増すことができます。
とりわけ、スピーチの冒頭や結びに使うと、話全体が引き締まりより印象的になると思います。
▼蛇足ながら、私は、人前での挨拶や講演などの結びに”人生邂逅”という言葉をたびたび使ってきました。
”人生邂逅”は、辞書にはない私の造語です。邂逅とは?人生とは?と、言葉の意味や私なりの人生観を話しながら、
その場の人達との出逢いに感謝し末長い親交を願いつつ”人生邂逅””邂逅感謝”で〆るのが常でした。
2025年5月1日木曜日
方言の周圏論
5月です。先月から始まったNHKの朝ドラ「あんぱん」を見ていて思うことがあります。
登場する人たちの土佐弁が私たちの富山弁によく似ているということです。
語尾の響きや使い方にそっくりな表現がたくさんあります。
▼朝ドラ「あんぱん」は、”アンパンマン”を生み出した漫画家やなせたかしと妻の暢をモデルにした物語です。
ドラマ中、助詞の「が」がつく会話が頻繁に出てきます。昨日の放送でも「うちはいいがですけど」「それが解けんがか」「丸暗記してしまうがよ」
「どんな味がするがやろ」「この家と結婚したがか」「そうなが?」「もう決めたがよ」「大切な人がおるがやない?」という具合でした。
確かに、土佐弁と富山弁には類似性がありそうです。
▼一昨年放送された朝ドラ「らんまん」を見ていた時にも同じことを思いました。
「らんまん」は、高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにした感動の物語でした。
この時も劇中に交わされた会話は、「が」の使い方が富山弁とよく似た土佐弁でした。
土佐弁と富山弁がどうして似ているのか?かねがね疑問でした。
▼腑に落ちる考え方に行きあたりました。方言の周圏論です。民俗学者・柳田国男が提唱した言語学の理論です。
言葉の変化は、文化の中心地(京都)から同心円状に広まって行くという考え方です。
東北弁と出雲弁の類似性も方言の周圏論の典型だと言います。確かに、どちらも「ズーズー弁」と呼ばれることがあり、とても似ています。
そう言えば、島根県出身の竹下元総理の話し方に東北訛りを感じたものでした。納得です。
▼ところで、松本清張の小説「砂の器」では、東北弁と出雲弁の類似性が重要なトリックに使われています。
物語の冒頭、東京で起きた殺人事件の被害者と犯人が「ズーズー弁」で話していたという証言から、警察は東北地方に捜査を広げます。
しかし、東北では手掛かりが得られず、やがてその方言が出雲地方のものであると判明するというストーリーです。
▼方言の周圏論は面白い考え方だと思います。納得の理論です。
富山弁と土佐弁は、ともに西日本方言の系統に属し、都(京都)から似たような距離に位置します。
遠く離れた富山と高知の方言の類似性は単なる偶然なのか?歴史的、言語的必然性が何かあるのか?
方言の謎が想像を駆り立てます。そして、朝ドラ「あんぱん」に特別な親近感を抱きつつ今朝も見るのです。
2025年4月1日火曜日
再起の春
4月です。春本番です。春は、希望に燃えて新生活を始める人の多い季節です。
一方で、春は、人によっては再起の機会として特別な意味を持つ重要な季節です。
そんな人にとって、春は、草木の芽吹きに深遠な生命力を感じつつ自らの再起に心機一転する絶好の節目なのかもしれません。
▼わが故郷の朝乃山にも、先月の春場所での三段目優勝を重要な再起の一歩にしてもらいたいものです。
朝乃山は、去年7月の名古屋場所で大怪我をしてから約半年ぶりに土俵に戻り7戦全勝で三段目優勝を果しました。
過去にも不祥事で出場停止処分を受け三段目から復帰して全勝優勝したことがあり、今回も盤石な相撲内容で復活への道を歩み始めました。
▼朝乃山には、ぜひ、玉鷲の継続力と不屈の精神に学んでもらいたいと思います。
玉鷲は、40歳にしてなお現役で活躍を続けています。怪我や困難を乗り越えながら通算出場記録を更新し土俵に立ち続けています。
朝乃山も、玉鷲に倣い40歳まで相撲を取るほどの気概で土俵に臨んでもらいたいものです。
▼朝乃山には、また、35歳にして相撲を楽しむ境地に至った高安に学んでもらいたいと思います。
先場所の高安は、千秋楽の優勝決定戦で大関の大の里に敗れ悲願の初優勝を逃したものの、大関時代を彷彿とさせる連日の大活躍でした。
場所中の勝利インタビューで答えた心境が至言でした。曰く「今が一番楽しいですね!やりがいがあります!」
勝負の世界で幾多の悔しさを積み重ねた末にようやく達した境地なのでしょう。
▼40歳にしてなお土俵で挑み続ける玉鷲。35歳にして相撲の本当の醍醐味に浸る高安。
31歳の朝乃山には、両力士の気骨溢れる姿がこの先の貴重な道導となることでしょう。
来場所は幕下上位に昇進することが予想されています。折しも、今月6日には富山場所が開催されます。地元の声援を力に復活の道を不屈邁進することを期待します。
▼蛇足ながら、新しい始まりの季節だから、このタイミングで自分の話し方やコミュニケーションスタイルを振り返り、
改善点を見つけて再起の春にしたいものです。
2025年3月1日土曜日
球春に鍛える
3月です。先月キャンプインした日米のプロ野球は、選手やチームの練習が最終盤を迎えています。
これから各球団は、実戦さながらにオープン戦を重ねペナントレースに向けて新しいチーム作りの仕上げに入って行きます。
▼キャンプとは、本来、軍隊などの集団が訓練のために一か所に集まることを言います。
プロ野球のキャンプはそれに倣ったもので、春季キャンプはシーズン本番に向けた準備期間として重要な意味を持っています。
また、若い選手にとってもその後の自らの野球人生を左右する大切な登竜門です。
▼先日、元千葉ロッテマリーンズの捕手で野球解説者の里崎智也さんが、出演したNHKの「ラジオ深夜便」で若い選手に贈るエールとして
「死ぬほど練習しろ!”量より質”はないぞ!」と、檄にも似た含蓄に富んだ発言をしていました。
▼曰く「自分の目標に到達するためには練習するしかない。トップアスリートやオリンピック選手で”量より質”と言っている人に会ったことがない。
トップの人は、10のことを1する。効率的に。そして、1を10個する。だから成し遂げられる。
”量より質”と言っている人は、10のことを1しかしない。ただ楽をしたいだけだ。そんなんじゃ上手くなりませんよ!」と。
▼里崎さんの発言は、練習量の重要性と練習の質と量の両立についての実感を伴った持論なのでしょう。
上達のためには大量の練習が不可欠であり、一流選手は質の練習を量をこなしてやっている。
真の上達には質の高い練習を大量に行なうことが必要だということを示唆しています。
▼この発言は、スポーツに限らず、あらゆる分野での成功に通じる普遍的な真理だと思います。
蛇足ながら、野球の実況アナウンサーにとっても、春季キャンプの取材は様々な能力を鍛える絶好の機会です。
繰り返される選手の動きから的確に描写する技術を試し、選手やコーチへのインタビューを通じて情報を引き出す力を養う貴重な機会になっているのです。
▼球春到来です。新しい春に目標に向かって質量充分に鍛えし選手たちに栄光あれ!!
2025年2月1日土曜日
音読でセラピー
2月です。先月中旬、元フジテレビのアナウンサー寺田理恵子さんの新刊「3分間の音読セラピー」が発売されました。音読シリーズの第4弾だそうです。
今回は、心理学の観点から太宰治や夏目漱石などの名作を音読することで心を整えることを目的に、単なる音読のススメとは一線を画す音読テキストになっています。
▼文学によるセラピー効果について寺田さんは「本は人生の教科書。本の中に自分の心の問題を解くカギがあるのではないか。
文学作品は人間を学ぶ教科書。作品から人生を知り、人の心理を探ることができる。本を読むことは人間の心理を読むこと。掲載の音読作品は人間の”心”をテーマに選んだ。」と巻頭に書いています。
▼セラピーとは、薬などを用いずに人が本来持っている力で治す療法を言います。
寺田さんは、家族を亡くし身も心もボロボロだった時に毎日の音読で体調を回復し思考もポジティブになったという自身の経験から音読にセラピー効果があることを実感し、
音読による心の癒し方や心の療法を伝えたいと思って書いたと、このたびの出版のいきさつをラジオで語っていました。
▼寺田さんによれば、声を出すことで呼吸筋が鍛えられ呼吸が良くなる。腹式呼吸で自律神経の働きを良くしストレスの解消になる。声を出すことで声帯が鍛えられ声が良くなる。
口を動かすことで表情筋が鍛えられ表情が豊かになる。何より、文字を読んで音声に変換するという、インプットとアウトプットを同時に行うことで脳の働きが活発になり脳トレになる。
などなど、音読のセラピー効果は多岐にわたると言います。
▼そういえば、今年の正月に大阪時代の先輩アナウンサーから貰った年賀状に「声で こころ と こころをつなげればー 今年も手をたずさえて・・・
朗読ユニットを立ち上げて4年目、もう少し頑張ります」とありました。
音読でセラピーを目指して続けている活動なのでしょう。先輩ながら、なお意気軒高な姿勢に敬服するばかりです。
2025年1月1日水曜日
うまくなりたい!
新年です。今年こそはと、期する思いを胸に新しい年を迎えた人も多いことでしょう。
年末に放送されたテレビのNHKスペシャルで、圧巻の歴史的な好成績で昨シーズンを終えた米大リーグの大谷翔平選手が、
念願のワールドシリーズを制して今後の目標は?と問われ「うまくなりたい!シンプルにそこだけかな」と答えていました。
大谷選手らしい一言に納得と共感を覚えました。
▼どこまでも貪欲に、そして謙虚に、”大谷翔平”とはそういう野球選手なのでしょう。
曰く「ワールドチャンピオンはチームのシーズンの目標。通過して行く1つのタイトル。野球人生を大きな括りで言えば、
一番の目標は、野球自体うまくなって自分が現役のうちにどれだけ納得できるものを残していけるかということ。《中略》
これまではいいペースで来ているが、100点満点ではないので、今後どうなって行くかを含めて楽しみにしたい」
▼大谷選手の思考と価値観はこれまでの他の発言でも一貫しています。「無駄な試合や無駄な練習というのはない」
「悪い中にも必ず向上するヒントがある。どこまでうまくなれるか楽しみに頑張りたい」「足りない部分が見えてやることがたくさんあることは幸せ」などなど。
大谷選手にとって、改善の余地があることは喜ばしいことであり、それが彼のこれまでの成長と成功の源泉になっているのでしょう。
▼自身の成長に対する姿勢と飽くなき向上心を端的に表わす大谷選手の言葉の数々は、私たちに、自己成長の喜びと挑戦を楽しむ姿勢の大切さ教えてくれます。
それは、単なるスポーツの世界だけでなく、私たちの日常生活や仕事でも有益な示唆となる貴重な洞察だと思います。
▼話し方でも、「うまくなりたい!」という向上心はとても大切です。自身の不足を成長の機会として捉えること、現状に満足せず常に前進すること、
他者との比較ではなく自分自身との競争に焦点をあてること、挑戦を苦痛ではなく喜びとして捉えること、などなど、
新年にあたり心して反芻し肝に銘じたい姿勢だと思いました。
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